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二番目の嘘つき 第三話

「苦しむのは私。」

森井 薫

· 森伊 薫,二番目の嘘つき,デートクラブ,パパ活,交際倶楽部

六本木駅に着いたときに、ふと恵里香のラインを見返した。

「ハジメさんどうだった?もし、登録するなら教えてね。一緒に行ってあげてるから。」

どちらともつかないようなスタンプを恵里香におくる梨沙。


なんだか信仰宗教の勧誘を受けたような気分だった。
幸せになれるから、今この数珠を買いなさい。そんな風に追い込まれてしまったと考えていた梨沙がいた。

その後に発した恵里香の言葉が離れない。

「今のままでいいの?苦しむのは梨沙だよ。」

須藤と別れ、家に帰ると2時間程度しか眠れなかった。

ラインiDを検索して、須藤を見つけることは出来た。
自分のラインの連絡先リストの中に入れることさえも躊躇していたが、梨沙は恵里香の無言の後押しのように、須藤を自分の連絡先に追加した。

追加すれば須藤に通知がいくはずだが、須藤本人からの連絡が来ない。プレッシャーは来ない。
 

むしろ須藤は梨沙の気持ちを見据えたように待ち続けているように感じた。


翌日会社に出勤すると、全くと行っていいほど仕事が手につかない。

 

あの日、恵里香と須藤に会って交際クラブの話をした日からである。


そんな状況にあると知る由もない瀬奈は梨沙の顔を見ながら話しかけている。

「梨沙、聞いてるの?」

「え?…な、なんだっけ?」

完全に迷いの気持ちが抑えられず、気がつけば梨沙は瀬奈と昼食をとっていた。
あまりにも意識がここにないと自分でも認めていた。

「ね、梨沙。病院にいくべきじゃない?気持ちはわからないわけじゃないけど。無理しないでよ。明らかにおかしいよ。最近。」

心配そうに梨沙を見ながら、社内食堂で頼んだロコモコを食べている。

何口か口にした瀬奈は梨沙の悩みに答えられない自分にモヤモヤしているようだった。

梨沙は一切話しを聞いていなかった。
その時間を取り戻すかのように

「なんの話だっけ?」

と瀬奈の顔色伺うみたいに聞く。

「だから、将人が3人で休みに映画見ようってさ。」

将人なりの梨沙への気遣いだった。

しかし、梨沙はそんな気持ちになれない。


今はなによりも「お金」だった。追い詰められているわけではないが、梨沙にとっては不安でしかなかった。


「ごめんね瀬奈。」

「大丈夫。梨沙が無理しなきゃいいの。一応私たち心配してるんだから。一応ね。」

その一言がすべてを物語っていると感じた瀬奈は、言い残すように席を立った。

自分のデスクに戻り、次回プレゼンの資料を確認していると。矢部に呼び出され、梨沙は早退を促された。

矢部や瀬奈や将人に対し悩んでいることが


「母親の死に対してではなく、単純に金であること」


は口が裂けてもいえない。

綺麗事なんかじゃない。わたしには死活問題なんだから。相談すればどうせ止められる。


瀬奈には話せなかった。ましてや将人なんかには言えるわけがない。


外を見れば梨沙の心の暗さとは正反対に陽気で明るい日当たりがいい天気が梨沙を襲っていた。

やはり気持ちが追いつかないのか梨沙は矢部に早退を申し出た。体調不良というよりも、頭が混乱してしまっているのは梨沙自身がわかっている。

歩きながら梨沙は携帯をいじりながら歩いていた。

財布から須藤の名刺を取り出し、震える手で番号を液晶に指紋をつけるように押した。

二回目のコールで須藤が電話に出る。

「はい、須藤です。どちら様でしょうか?」

「あの、梨沙です。」

「あ、梨沙さん!お電話ありがとうございます。どうされたんですか?」

突然の電話で、梨沙の番号も知らないから解らないのは無理もない。

電話が来ないものだと思った須藤は素直に驚いていた。梨沙もスカウトに頼ってしまう自分が許せないでいた。

「あの…この前話した交際クラブのこと、聞きたくて。」

振り絞るような声で梨沙は須藤に答えた。

うんうんと、電話なのに相槌を打ってくれている須藤

「わかりました。いまどちらにいらっしゃいます?少しカフェかなにかでお話しましょう。」

 

梨沙は、須藤に今渋谷にいると告げた。

渋谷のカフェはいくつかあるが、方向音痴の梨沙でもすぐに分かるような場所を指定してくれた。

 

カフェの近くに到着すると、すでに須藤が待っていた。しかしカフェ前の自販機で一人の女性と話していた。

右手には2台の携帯を持ち、左手には黒革のセカンドバックを持っていた。

以前見たときは店も暗かったせいかあまり解らなかったが、昼間に見ると、かなりの筋肉質の体だった。明らかに近寄りがたいオーラしか出てなかった。

なんだか一人の女性を口説いている風に見えた。

しかし、梨沙の存在が分かると大きく手をバタバタと手を振ってきた。

 

「梨沙さん!」

その大声と同じタイミングで、須藤と話して辟易としていた女性は、そそくさとその場から離れて歩いていった。

 

「あ…」

と須藤は餌だけ取られて、魚を取り逃したときの釣り人のように残念そうに逃げた女性を見ていた。

 

「あれ?お知り合いとかじゃないんですか?」

梨沙は須藤に不思議そうな目で問いかけた。

 

「梨沙さん待ってる間、時間あるしスカウトしてただけなので。…ってあんまりやってたら捕まっちゃうんですよね。警察じゃないところに。」

と笑えない話を梨沙に笑顔をみせてる。

 

「ここのカフェ、後輩が店長しててよく使うんですよ。いい席予約したので。どうぞ」

とカフェの扉をあけてレディーファーストをしてくれた。相変わらず見た目とは違うような態度で接してくれる。でも梨沙は信用という言葉はまだ出せていない。

 

店に入ると、渋谷のこの場所にこんな贅沢なデザインでカフェをするなんて相当の覚悟がいるんじゃないかと思うほど広くオシャレになっていた。

 

店長らしき人が出てきて、須藤に一言告げる。

「席用意してるので、奥の方に。」

 

いつも利用しているのか、店長には「ありがと」と一言で済ませ、案内もされずに予約された席に着く。角で半個室のような場所だった。その周りには誰も人がいない。

話の内容を聞かれないような配慮なのだろうか?不思議に思いながら梨沙は奥の席にすわらされ、須藤はすぐに店長を手招きをして呼んだ。

 

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