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二番目の嘘つき

第二話 「首から天使。」

森井 薫

· 二番目の嘘つき,森伊 薫,連載小説,デートクラブ,交際倶楽部

六本木に着いた梨沙は、3番出口の地上にでるとまだ肌寒いコートの袖をつかみながら、片手で携帯を見ながら左右に首を振った。

地図のナビアプリでは左を指している。
梨沙は、ほどほどに方向音痴なので、

バッテリーの17%のリミットか?お店までにたどり着けるのか?

このチキンレースであることは間違いない。

梨沙としても、西麻布には2回ほどしか来たことはないし、ましてや初めていく店の場所なんざわかるはずもない。

携帯が鳴り、画面を見たら恵里香だった。

「梨沙?もう近く?」

もしもしの一言もなく、恵里香は話す。

「ごめん、近くなんだけど。迷った!」

と反撃の狼煙をあげると、

「解ってるよ。今何がみえる?」

鼻で笑ったのは電話でも解った。
いつも通りの対応の恵里香。


言われた通りにふと顔をあげると、紳士服のお店の看板と、カラオケ屋さんの看板がみえる。

恵里香にそれを伝えると、3分後梨沙の背後に現れた。

「ちょっと、梨沙。この場所どうやったら迷えるの?ラインで住所送ったし、道案内のアプリだってダウンロードしたんでしょ?なにしてんの?」

久しぶりという言葉もなしに恵里香の説教。

お姉ちゃんがいたら、こんな喧嘩が出来たんだろうと想像している自分がいた。

「ご、ごめんね」
全く反省してない謝り方で、身長差10センチ上の恵里香に手を合わせる。

「もう、須藤さん待ってるから」
と言い吐いて、店にそそくさと入る恵里香。追いつかないとと言わんばかりに早歩きで追いかける梨沙は、

「だれ?須藤さん?」


と何気ない質問を息を切らしながら恵里香に質問をすると、恵里香は突然立ち止まり振り返る。

「あ、あ、あれ?恵里香に言ってなかった?スカウトさん。」

「え?スカウト?」

「うん」

と悪戯っぽく恵里香はまた振り向き直し、予約していた個室に入る。

個室に入ると、明らかにチャラい男性が電子タバコを吸いながら、2台の携帯を操っている。

「はい!お疲れ様です。話していた件ですが…」

と恵里香と梨沙の存在に気付き電話をしながら、梨沙に向かい軽く会釈をする。


首元までタトゥーをいれており、一見では日常生活では絶対に会わないであろう男性だ。

電話が終わり、すぐさまツーブロックでこんがりと日焼けした須藤は立ち上がり、深々と頭を下げて

「すいません、仕事の電話で。はじめまして!須藤です。ハジメって呼んでください。」

と元気よく梨沙に声をかけた。
首もとから見え隠れする天使のタトゥーをいれて、見た目はいかついのに、しっかり敬語をつかう。


屈託のない笑顔で、左手を差し出した須藤は握手を求めた。

「え、あ、梨沙です。はじめまして…」

状況が飲み込めない梨沙の返事は、吐息のように聞こえるか聞こえないかの瀬戸際のボリュームだった。

なんて言ったの?と恵里香に小声で問いただした須藤は納得したような顔で、

「梨沙さん。いきなりごめんなさい。ビックリしたでしょ。恵里香ちゃんが紹介したい子がいるって聞いて来たんすよ。」

その言葉に梨沙は、恵里香の方を見て睨む。


(どういうことなの?)と口をパクパクしてるのを見て恵里香は悪戯したように舌を出す。

店員がちょうど梨沙と恵里香の間に持ってきた熱々のパスタを置いた。恵里香は左肘をついて、右手に持ったフォークで砂肝を刺しながら梨沙に話す。

「ね。梨沙。この前私が渡した香典貰って違和感感じなかった?無職の私が何であんな払えたか。おかしいと思わない?」

思ってたことを見透かされていたように、梨沙は驚きを隠せない。続けて恵里香はシャンディガフを一口飲み話を続ける。

「あのね。梨沙と同じように片親だったけど19の時に須藤さんにスカウトされて、パパ活した方が稼げるよって。聞いたことある?パパ活。」

「まぁ、少しは…。詳しくはしらないけど。」

「じゃあ、交際クラブは?」

すかさず須藤が話に割り込む。
この話は須藤にもう任せようと恵里香は店のメニューを見始めた。

「梨沙さん、お金とかに困ってたりします?キャバとか風俗とかって経験はあります?」

「キャバは、恵里香と一時期してたけど、20の頃だし。今は時間がないですし。」

「そっか、じゃあ自分の休みにご飯だけで10,000円貰ったりできたら嬉しくないですか?」

「まぁ…」

畳み掛けるように恵里香は店員に軟骨の唐揚げを頼み終わると、梨沙のほうに振り向き話し始めた。

「お葬式のときに話したでしょ。奨学金とか葬儀代も今の給料じゃ厳しいって。だから、梨沙が困ってると思ってハジメさんに相談したの。ハジメさんこんな感じだけど、親身になってくれる人だから。梨沙もした方がいいよ」

「でも…」

「風俗じゃないし、自分の都合に合わせやすいんだから。あ…」

パパに買ってもらったであろうブルガリの腕時計を恵里香は見た。

「ごめん、梨沙。今からパパに会うの。またラインしてね。ハジメさん。ごめんなさい。」

「恵里香ちゃん、大丈夫ですよ。ここ払っとくから。」

「ちょ…恵里香?」

梨沙の声には見向きもせず、恵里香はそそくさとエルメスの鞄を持ち、店を出た。


須藤と梨沙は恵里香の背中を見終わると、話し始めたのは須藤の方だった。

「恵里香ちゃんから色々聞きましたよ。大変でしたね。梨沙さん自身が決める事なんで無理には言わないんですが、恵里香ちゃん見たら分かるとおり、あの子の生活が激変しましたからね。」

「…。」

「ちなみに食事では10,000円くらい。もしそれ以上なら希望額だから、まぁこれくらいはもらえるんじゃないでしょうか?」


と須藤が「これ」と言って見せたのは掌だった。

「ん?手?それ以上?どういう意味ですか?」

「あ、そこから…ですか。エッチですよ。」

「ん…っと。手のひらは…」

「梨沙さん可愛いし、5万は貰えるんじゃないですかね。」

「エッチで5万?」

「それくらい貰えたら、今のローンだってすぐ終わりますよ。梨沙さんなら。」

苦手なのかと思い梨沙と話しているときは、アイコスも吸わない須藤は、畳み掛けるように話した。

「ま、風俗だとお店に半分とられてしまうんですが、貰った分は自分のものですよ?それに今の仕事続けられるし自分の都合に合わせやすいし、最近パパ活がスタンダードな感じだし。気軽に考えてみたらどうです?」

梨沙は正直なところ迷っていた。

「あの、ハジメさんはよく紹介してるんですか?その交際クラブを。」

「交際クラブだけじゃないですよ。飲み屋や風俗とかソープも。」

梨沙の顔も見ずに携帯でお抱えの女性にラインで連絡しながら話す。思い出したかのように梨沙の顔を見て話を進める。

「迷うのも仕方ないですよ。いきなりなんだし。一先ずライン教えますね。いつも紹介してる交際クラブがあるんで、気持ちが落ち着いたら繋げますね。」

「え、は、はい…。」

と梨沙は無理くり渡された名刺を渡された。


そこにはスカウト会社代表と書いてある。名刺の裏面にはラインiDが記載されていた。

店を出る時に須藤は思い出したかのように一言梨沙に対し呟いた。

「梨沙さん。女性って、若い今しか出来ないこと沢山あるんですよ。」

笑顔でさよならを告げる須藤は深々と梨沙に頭を下げる。振り返り、タクシーに乗る須藤の幅広い背中を見ていたら、左手に持っていた携帯からラインの着信通知が鳴った。

恵里香からのラインだ。

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